を差向けた。
お米といって、これはそのおじさん、辻町糸七――の従姉《いとこ》で、一昨年《おととし》世を去ったお京の娘で、土地に老鋪《しにせ》の塗師屋《ぬしや》なにがしの妻女である。
撫《な》でつけの水々しく利いた、おとなしい、静《しずか》な円髷《まるまげ》で、頸脚《えりあし》がすっきりしている。雪国の冬だけれども、天気は好《よ》し、小春日和だから、コオトも着ないで、着衣《きもの》のお召《めし》で包むも惜しい、色の清く白いのが、片手に、お京――その母の墓へ手向ける、小菊の黄菊と白菊と、あれは侘《わび》しくて、こちこちと寂しいが、土地がら、今時はお定《さだま》りの俗に称《とな》うる坊さん花、薊《あざみ》の軟《やわらか》いような樺紫《かばむらさき》の小鶏頭《こげいとう》を、一束にして添えたのと、ちょっと色紙の二本たばねの線香、一銭蝋燭《いちもんろうそく》を添えて持った、片手を伸べて、「その提灯を」といったのである。
山門を仰いで見る、処々、壊《く》え崩れて、草も尾花もむら生えの高い磴を登りかかった、お米の実家の檀那寺《だんなでら》――仙晶寺というのである。が、燈籠寺《とうろうでら》とい
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