《かんしはんじょう》に霜深し。
 まだ突立《つった》ったままで、誰も人の立たぬ店の寂《さみ》しい灯先《ひさき》に、長煙草《ながぎせる》を、と横に取って細いぼろ切れを引掛《ひっか》けて、のろのろと取ったり引いたり、脂通《やにどお》しの針線《はりがね》に黒く畝《うね》って搦《から》むのが、かかる折から、歯磨屋《はみがきや》の木蛇の運動より凄《すご》いのであった。
 時に、手遊屋《おもちゃや》の冷《ひやや》かに艶《えん》なのは、
「寒い。」と技師が寄凭《よりかか》って、片手の無いのに慄然《ぞっ》としたらしいその途端に、吹矢筒を密《そっ》と置いて、ただそれだけ使う、右の手を、すっと内懐《うちぶところ》へ入れると、繻子《しゅす》の帯がきりりと動いた。そのまま、茄子《なす》の挫《ひしゃ》げたような、褪《あ》せたが、紫色の小さな懐炉《かいろ》を取って、黙って衝《つ》と技師の胸に差出したのである。
 寒くば貸そう、というのであろう。……
 挙動《しぐさ》の唐突《だしぬけ》なその上に、またちらりと見た、緋鹿子《ひがのこ》の筒袖《つつッぽ》の細いへりが、無い方の腕の切口に、べとりと血が染《にじ》んだ時の状
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