、これを知ってなお照れた。
「今に御覧《ごろう》じろ。」
と遠灯《とおび》の目《ま》ばたきをしながら、揃えた膝をむくむくと揺《ゆす》って、
「何て、寒いでしょう。おお寒い。」
と金切声を出して、ぐたりと左の肩へ寄凭《よりかか》る、……体の重量《おもみ》が、他愛ない、暖簾《のれん》の相撲で、ふわりと外れて、ぐたりと膝の崩れる時、ぶるぶると震えて、堅くなったも道理こそ、半纏《はんてん》の上から触っても知れた。
げっそり懐手《ふところで》をしてちょいとも出さない、すらりと下った左の、その袖は、何も支えぬ、婦《おんな》は片手が無いのであった。
九
もうこの時分には、そちこちで、徐々《そろそろ》店を片附けはじめる。まだ九時ちっと廻ったばかりだけれども、師走の宵は、夏の頃の十二時過ぎより帰途《かえり》を急ぐ。
で、処々、張出しが除《と》れる、傘《からかさ》が窄《すぼ》まる、その上に冷《つめた》い星が光を放って、ふっふっと洋燈《ランプ》が消える。突張《つっぱ》りの白木《しらき》の柱が、すくすくと夜風に細って、積んだ棚が、がたがた崩れる。その中へ、炬燵《こたつ》が化けて歩行
前へ
次へ
全45ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング