《ゆら》めいたが、波を浮いたか、霞を落ちたか、その大《おおき》さ、やがて扇ばかりな真白《まっしろ》な一羽の胡蝶《こちょう》、ふわふわと船の上に顕《あら》われて、つかず、離れず、豌豆《えんどう》の花に舞う。
 やがて蝶が番《つがい》になった。
 内は寂然《ひっそり》とした。
 芸者の姿は枝折戸《しおりど》を伸上った。池を取廻《とりま》わした廊下には、欄干越《てすりごし》に、燈籠《とうろう》の数ほど、ずらりと並ぶ、女中の半身。
 蝶は三ツになった。影を沈めて六ツの花、巴《ともえ》に乱れ、卍《まんじ》と飛交う。
 時にそよがした扇子を留めて、池を背後《うしろ》に肱掛窓《ひじかけまど》に、疲れたように腰を懸ける、と同じ処に、肱《ひじ》をついて、呆気《あっけ》に取られた一帆と、フト顔を合せて、恥じたる色して、扇子をそのまま、横に背《そむ》いて、胸越しに半面を蔽《おお》うて差俯向《さしうつむ》く時、すらりと投げた裳《もすそ》を引いて、足袋の爪先を柔かに、こぼれた褄《つま》を寄せたのである。

 フト現《うつつ》から覚めた時、女の姿は早やなかった。
 女中に聞くと、
「お車で、たった今……」
[#地
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