見送ったが、顔に袖《そで》を当てて、長柄《ながえ》にはッと泣伏《なきふ》しました。それッきり。」
高坂は声も曇って、
「私を負《おぶ》った男は、村を離れ、川を越して、遙《はるか》に鈴見《すずみ》の橋の袂《たもと》に差置《さしお》いて帰りましたが、この男は唖《おうし》と見えて、長い途《みち》に一言も物を言やしません。
私は死んだ者が蘇生《よみがえ》ったようになって、家《うち》へ帰りましたが、丁度《ちょうど》全三月《まるみつき》経《た》ったです。
花を枕頭《まくらもと》に差置《さしお》くと、その時も絶え入っていた母は、呼吸《いき》を返して、それから日増《ひまし》に快《よ》くなって、五年経ってから亡くなりました。魔隠《まかくし》に逢った小児《こども》が帰った喜びのために、一旦《いったん》本復《ほんぷく》をしたのだという人もありますが、私は、その娘の取ってくれた薬草の功徳《くどく》だと思うです。
それにつけても、恩人は、と思う。娘は山賊に捕われた事を、小児心《こどもごころ》にも知っていたけれども、堅《かた》く言付《いいつ》けられて帰ったから、その頃三ヶ国|横行《おうこう》の大賊《たいぞ
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