嘉伝次 宅膳どん、こりゃ、きものを着ていて可《よ》いかい。
宅膳 はあ、いずれ、社《やしろ》の森へ参って、式のごとく本支度に及びまするて。社務所には、既に、近頃このあたりの大地主になれらましたる代議士閣下をはじめ、お歴々衆、村民一同の事をお憂慮《きづかい》なされて、雨乞《あまごい》の模様を御見物にお揃いでござりますてな。
嘉伝次 その事じゃっけね。
初雄 皆、急ぐです。
管八 諸君努力せよかね、はははは。
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一同、どやどやと行《ゆ》きかかる。
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晃 (衝《つ》と来り、前途《ゆくて》に立って、屹《きっ》と見るより、仕丁を左右へ払いのけ、はた、と睨《にら》んで、牛の鼻頭《はなづら》を取って向け、手縄《たづな》を、ぐい、と緊《し》めて、ずかずか我家の前。腰なる鎌を抜くや否や、無言のまま、お百合のいましめの縄をふッと切る。)
百合 (一目見て)おお晃さん、(ところげ落ち、晃のうしろに身をかくして、帯の腰に取縋《とりすが》り)旦那様、いい処へ。貴下《あなた》。どうして、まあ、よく、まあ、早う帰って下さい
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