緋《ひ》の衣したる山伏の扮装《いでたち》。山牛蒡《やまごぼう》の葉にて捲《ま》いたる煙草《たばこ》を、シャと横銜《よこぐわ》えに、ぱっぱっと煙を噴きながら、両腕を頭上に突張《つッぱ》り、ト鋏《はさみ》を極込《きめこ》み、踞《しゃが》んで横這《よこばい》に、ずかりずかりと歩行《ある》き寄って、与十の潜見《すきみ》する向脛《むこうずね》を、かっきと挟んで引く。
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与十 痛《いて》え。(と叫んで)わっ、(と反る時、鯉ぐるみ竹の小笠を夕顔の蔭に投ぐ。)ひゃあ、藪沢《やぶさわ》の大蟹《おおがに》だ。人殺し!
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と怪《け》し飛んで遁《に》ぐ。――蟹五郎すかりすかりと横に追う。
鯉七《こいしち》。鯉の精。夕顔の蔭より、するすると顕《あらわ》る。黒白鱗《こくびゃくうろこ》の帷子《かたびら》、同じ鱗形《うろこがた》の裁着《たッつけ》、鰭《ひれ》のごときひらひら足袋。件《くだん》の竹の小笠に、面《おもて》を蔽《おお》いながら来り、はたとその小笠を擲《なげう》つ。顔白く、口のまわり、べたりと髯《ひげ》黒し。蟹、これを
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