じい》に聞いた伝説を、先祖の遺言のように厳《おごそか》に言って聞かせると、村のものは哄《どっ》と笑う。……若いものは無理もない。老寄《としより》どもも老寄どもなり、寺の和尚《おしょう》までけろりとして、昔話なら、桃太郎の宝を取って帰った方が結構でござる、と言う。癪《しゃく》に障った――勝手にしろ、と私もそこから、(と框《かまち》を指し)草鞋《わらじ》を穿《は》いて、すたすたとこの谷を出て帰ったんだ。帰る時、鹿見村《しかみむら》のはずれの土橋の袂《たもと》に、榎《えのき》の樹の下に立ってしょんぼりと見送ったのが、(と調子を低く)あの、婦人《おんな》だ。
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その日の、明六つの鐘さえ、学校通いの小児《こども》をはじめ、指《ゆびさ》しをして笑う上で、私が撞いた。この様子では、最早や今日から、暮六つの鐘は鳴るまいな!……
もしや、岩抜け、山津浪、そうでもない、大暴風雨《おおあらし》で、村の滅びる事があったら、打明けた処……他《ほか》は構わん、……この娘の生命《いのち》もあるまい――待て、二三日、鐘堂《つりがねどう》を俺が守ろう。その内には、とまた四五日、半月、一月を経《ふ》
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