ったのが、なぜ見せなかった、と詰《なじ》るように聞えたので、早瀬は石を突流すごとく、
「縁が無かったんだろうよ。」
「ところがあります、ははは、」と、ここでまた相好とともに足を崩して、ぐたりと横坐りになって、
「思うに逢わずして思わざるに……じゃない。向うも来れば僕も来るのに、此家《ここ》で逢いそうなものだったが、そうでなくって君、学校で見たよ。ああ、あの人の行く学校で、妙子さんの行く学校で。」
 と、何だか話しに乗らないから、畳かけて云った。妙子、と早や名のこの男に知られたのを、早瀬はその人のために恥辱のように思って、不快な色が眉の根に浮んだ。
「どうして、学校で、」
 とこの際わざと尋ねたのである。母子《おやこ》で参観したことは、もう心得ていたのに。

       十七

「どうもこうも無いさ。母様と二人で参観に出掛けたんだ。教頭は僕と同窓だからね。先《せん》にから来て見い、来て見い、と云うけれど、顔の方じゃ大した評判の無い学校だから、馬鹿にしていたが驚いたね。勿論五年級にゃ佳《い》いのが居ると云ったっけが、」
「じゃあその教頭、媒酌人《なこうど》も遣《や》るんだな。」
 と舌尖
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