に、背《せな》より、胸より、ひしと主税を庇《かば》ったので、英臣は、面《おもて》を背けて嘆息し、たちまち狙を外らすや否や、大夫人を射て、倒して、硝薬《しょうやく》の煙とともに、蝕する日の面《おもて》を仰ぎつつ、この傲岸《ごうがん》なる統領は、自からその脳を貫いた。
 抱合って、目を見交わして、姉妹《きょうだい》の美人《たおやめ》は、身を倒《さかさま》に崖に投じた。あわれ、蔦に蔓《かずら》に留《とど》まった、道子と菅子が色ある残懐《なごり》は、滅びたる世の海の底に、珊瑚《さんご》の砕けしに異ならず。
 折から沖を遥《はるか》に、光なき昼の星よと見えて、天に連《つらな》った一点の白帆は、二人の夫等の乗れる船にして、且つ死骸《なきがら》の俤《おもかげ》に似たのを、妙子に隠して、主税は高く小手を翳《かざ》した。
 その夜《よ》、清水港の旅店において、爺《じじい》は山へ柴苅に、と嬢さんを慰めつつ、そのすやすやと寐《ね》たのを見て、お蔦の黒髪を抱《いだ》きながら、早瀬は潔く毒を仰いだのである。

 早瀬の遺書は、酒井先生と、河野とに二通あった。
 その文学士河野に宛《あ》てたは。――英吉君……島山
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