さ》るのみか。裾端折り、頬被《ほほかぶり》して、男――とあられもない姿。ちらりとでも、人目に触れて、貴女は、と一言聞くが最後よ、活きてはいられない大事の瀬戸。辛《から》く乗切って行《ゆ》く先は……実《まこと》の親の死目である。道子が心はどんなであろう。
大巌山の幻が、闇《やみ》の気勢《けはい》に目を圧《おさ》えて、用水の音|凄《すさま》じく、地を揺《ゆ》るごとく聞えた時、道子は俤《おもかげ》さえ、衣《きぬ》の色さえ、有るか無きかの声して、
「夢ではないのでしょうかしら。宙を歩行《ある》きますようで、ふらふらして、倒れそうでなりません。早瀬さん、お袖につかまらして下さいまし。」
「しっかりと! 可《い》い塩梅《あんばい》に人通りもありませんから。」
人は無くて、軒を走る、怪しき狗《いぬ》が見えたであろう。紺屋の暖簾の鯛の色は、燐火《おにび》となって燃えもせぬが、昔を知ればひづめの音して、馬の形も有りそうな、安東村へぞ着きにける。
四十二
道子は声も※[#「彳+淌のつくり」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]《さまよ》うように、
「こ
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