巻の襟を出た肩の辺《あたり》が露《あらわ》に見えた。残燈《ありあけ》はその枕許にも差置いてあったが、どちらの明《あかり》でも、繋いだものの中は断たれず。……
 ぶるぶる震うと、夫人はふいと衾《ふすま》を出て、胸を圧《おさ》えて、熟《じっ》と見据えた目に、閨の内を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》して、※[#「りっしんべん+夢」の「夕」に代えて「目」、第4水準2−12−81]《ぼう》としたようで、まだ覚めやらぬ夢に、菫咲く春の野を※[#「彳+淌のつくり」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]《さまよ》うごとく、裳《もすそ》も畳に漾《ただよ》ったが、ややあって、はじめてその怪い扱帯《しごき》の我を纏《まと》えるに心着いたか、あ、と忍び音に、魘《うな》された、目の美しい蝶の顔は、俯向けに菫の中へ落ちた。


     思いやり

       二十

 妙子は同伴《つれ》も無しにただ一人、学校がえりの態《なり》で、八丁堀のとある路地へ入って来た。
 通うその学校は、麹町《こうじまち》辺であるが、どこをどう廻ったのか、真砂町《まさごちょう》の嬢さ
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