ら、ついね、」
と気の毒そう。
「まあ、可い、そんな事は構わないが、僕と懇意にしてくれるんなら、もうちっと君、遊蕩《あそび》を控えて貰いたいね。
昨日《きのう》も君の母様が来て、つくづく若様の不始末を愚痴るのが、何だか僕が取巻きでもして、わッと浮かせるようじゃないか。
高利《アイス》を世話して、口銭を取る。酒を飲ませてお流《ながれ》頂戴。切々《せつせつ》内へ呼び出しちゃ、花骨牌《はなふだ》でも撒《ま》きそうに思ってるんだ。何の事はない、美少年録のソレ何だっけ、安保箭五郎直行《あほのやごろうなおゆき》さ。甚しきは美人局《つつもたせ》でも遣りかねないほど軽蔑《けいべつ》していら。母様の口ぶりが、」
とややその調子が強くなったが、急に事も無げな串戯口《じょうだんぐち》、
「ええ、隊長、ちと謹んでくれないか。」
「母様の来ている内は謹慎さ。」
と灰を掻きまわして、
「その代り、西洋料理七皿だ。」と火箸をバタリ。
十五
「じゃあ色気より食気の方だ、何だか自棄《やけ》に食うようじゃないか。しかし、まあそれで済みゃ結構さ。」
「済みやしないよ、七皿のあとが、一銚子《ひとちょうし》、玉子に海苔《のり》と来て、おひけ[#「おひけ」に傍点]となると可いんだけれど、やっぱり一人で寝るんだから、大きに足が突張《つっぱ》るです。それに母様が来たから、ちっとは小遣があるし、二三時間駈出して行って来ようかと思う。どうだろう、君、迷惑をするだろうか。」
と甘えるような身体《からだ》つき、座蒲団にぐったりして、横合から覗《のぞ》いて云う。
「何が迷惑さ。君の身体で、御自分お出かけなさるに、ちっとも迷惑な事はない。迷惑な事はないが……」
「いや、ところが今夜は、君の内へ来たことを、母様が知ってるからね。今のような話じゃ、また君が引張出したように、母様に思われようかと、心配をするだろうと云うんだ。」
「お疑いなさるは御勝手さ。癪《しゃく》に障ればったって、恐い事、何あるものか、君の母親《おふくろ》が何だ?」
と云いかけて、語気をかえ、
「そう云っちまえば、実も蓋《ふた》もない。痛くない腹を探られるのは、僕だって厭《いや》だ。それにしても早瀬へ遊びに行くと云う君に、よく故障を入れなかったね。」
「うむ、そりゃあれです、君に逢わない内は疑《うたぐ》っていないでもなかったがね、
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