僧の時よ。朝露の林を分けて、塒《ねぐら》を奥山へ出たと思いねえ。蛙《けえろ》の面《つら》へ打《ぶっ》かけるように、仕かけの噴水が、白粉《おしろい》の禿げた霜げた姉さんの顔を半分に仕切って、洒亜《しゃあ》と出ていら。そこの釣堀に、四人|連《づれ》、皆洋服で、まだ酔の醒《さ》めねえ顔も見えて、帽子は被《かぶ》っても大童《おおわらわ》と云う体だ。芳原げえりが、朝ッぱら鯉を釣っているじゃねえか。
 釣ってるのは鯉だけれど、どこのか田畝の鰌《どじょう》だろう。官員で、朝帰りで、洋服で、釣ってりゃ馬鹿だ、と天窓《あたま》から呑んでかかって、中でも鮒《ふな》らしい奴の黄金鎖《きんぐさり》へ手を懸ける、としまった! この腕を呻《うん》と握られたんだ。
 掴《つかま》えて打《ぶ》ちでもする事か、片手で澄まし込んで釣るじゃねえか。釣った奴を籠へ入れて、(小僧これを持って供をしろ。)ッて、一睨《ひとにらみ》睨まれた時は、生れて、はじめて縮《すく》んだのさ。
 こりゃ成程ちょろッかな(隼)の手でいかねえ。よく顔も見なかったのがこっちの越度《おちど》で、人品骨柄を見たって知れる――その頃は台湾の属官だったが、今じゃ同一所《おんなじとこ》の税関長、稲坂と云う法学士で、大鵬《たいほう》のような人物、ついて居た三人は下役だね。
 後で聞きゃ、ある時も、結婚したての細君を連れて、芳原を冷かして、格子で馴染《なじみ》の女に逢って、
(一所に登楼《あが》るぜ。)と手を引いて飛込んで、今夜は情女《いろおんな》と遊ぶんだから、お前は次の室《ま》で待ってるんだ、と名代《みょうだい》へ追いやって、遊女《おいらん》と寝たと云う豪傑さね。
 それッきり、細君も妬《や》かないが、旦那も嫉気《じんすけ》少しもなし。
 いつか三月ばかり台湾を留守にして、若いその細君と女中と書生を残して置くと、どこの婦《おんな》も同一《おんなじ》だ。前《ぜん》から居る下役の媽々《かかあ》ども、いずれ夫人とか、何子とか云う奴等が、女同士、長官の細君の、年紀《とし》の若いのを猜《そね》んだやつさ。下女に鼻薬を飼って讒言《つげぐち》をさせたんだね。その法学士が内へ帰ると、(お帰んなさいまし、さて奥様はひょんな事。)と、書生と情交《わけ》があるように言いつける。とよくも聞かないで、――(出て行《ゆ》け。)――と怒鳴り附けた。
 誰に云ったと思いま
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