て、打棄《うっちゃ》って、フイと立って蒲団を持出すやら、開放《あけはな》しましょう、と障子を押開《おっぴら》いたかと思うと、こっちの庭がもうちっとあると宜《よろ》しいのですが、と云うやら。散らかっておりまして、と床の間の新聞を投《ほう》り出すやら。火鉢を押出して突附けるかとすれば、何だ、熱いのに、と急いでまた摺《ずら》すやら。なぜか見苦しいほど慌《あわただ》しげで、蜘蛛《くも》の囲《す》をかけるように煩《うるさ》く夫人の居まわりを立ちつ居つ。間には口を続けて、よくいらっしゃいました、ようこそおいで、思いがけない、不思議な御方が、不思議だ、不思議だ、と絶《たえ》ず饒舌《しゃべ》ったのである。
「まあ、まあ、どうぞ、どうぞ、」
とその中《うち》に落着いた夫人もつい、口早になって、顔を振上げながら、ちと胸を反《そ》らして、片手で煙を払うような振《ふり》をした。
早瀬はその時、机の前の我が座を離れて、夫人の背後《うしろ》に突立《つった》っていたので、上下《うえした》に顔を見合わせた。余り騒がれたためか、内気な夫人の顔《かんばせ》は、瞼《まぶた》に色を染めたのである。
と、早瀬は人間が変ったほど、落着いて座に返って、徐《おもむろ》に巻莨《まきたばこ》を取って、まだ吸いつけないで、ぴたりと片手を膝に支《つ》いた、肩が聳《そび》えた。
「夫人《おくさん》、貴女はこれから慈善市《じぜんし》へいらしって、貧者《びんぼうにん》のためにお働きなさるんですねえ。」
と沈んで云う。
顔を見詰められたので、睫毛《まつげ》を伏せて、
「はい、ですが私はただお手伝いでございます。」
「お願いがございます。」
と匐《のめ》るがごとく、主税がはたと両手を支いた。
余り意外な事の体に、答うる術《すべ》なく、黙って流眄《ながしめ》に見ていたが、果しなく頭《こうべ》も擡《もた》げず、突いた手に畳を掴《つか》んだ憂慮《きづかわ》しさに、棄ても置かれぬ気になって、
「貴下、まあ、更《あらた》まって何でございますの。」
とは云ったが、思入った人の体に、気味悪くもなって、遁腰《にげごし》の膝を浮かせる。
「失礼な事を云うようですが、今日の催《もよおし》はじめ、貴女方のなさいます慈善は、博くまんべんなく情《なさけ》をお懸けになりますので、旱《ひでり》に雨を降らせると同様の手段。萎《な》えしぼんだ草樹も
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