おつけ》を装《よそ》う白々《しろしろ》とした手を、感に堪えて見ていたが、
「玉手を労しますな、」
と一代の世辞を云って、嬉しそうに笑って、
「御馳走(とチュウと吸って)これは旨《うま》い。」
「人様のもので義理をして。ほほほ、お土産も持って参りません。」
その挨拶もせずに、理学士は箸《はし》もつけないで、ごッくごッく。
「非常においしいです。僕は味噌汁と云うものは、塩が辛くなきゃ湯を飲むような味の無いものだとばかり思うたです。今、貴女、干杓《ひしゃく》に二杯入れたですね。あれは汁を旨く喰わせる禁厭《まじない》ですかね。」
「はい、お禁厭でございます。」
と云った目のふちに、蕾《つぼみ》のような微笑《ほほえみ》を含んでいたから。
「は、は、は、串戯《じょうだん》でしょう。」
「菅子さんに聞いて御覧なさいまし。」
「そう云えば貴女、もうお出掛けなさらなければなりますまいで。」
「は、私はちっとも急ぎませんけれど、今日は名代《みょうだい》も兼ねておりますから、疾《はや》く参ってお手伝いをいたしませんと、また菅子さんに叱言《こごと》を言われると不可《いけ》ません――もうそれでは、若竹座へ参っております時分でしょうね。」
「うんえ、」
頬ばった飯に籠って、変な声。
「道寄をしたですよ。貴女これからおいでなさるなら、早瀬の許《とこ》へお出でなさい、あすこに居ましょうで。」
「しますと、あの方も御一所なんですか。」
「一所じゃないです。早瀬がああいう依怙地《いこじ》もんですで。半分馬鹿にしていて、孤児院の義捐《ぎえん》なんざ賛成せんです。今日は会へも出んと云うそうで。それを是非説破して引張出すんだと云いましたから、今頃は盛に長紅舌を弄《ろう》しておるでしょう、は、はは、」
と調子高に笑って、厭《いや》な顔をして、
「行って見て下さらんか。貴女、」
「はい、」
となぜか俯向《うつむ》いたが、姉夫人はそのまましとやかに別れの会釈。
「また逢違いになりませんように、それでは御飯を召食《めしあが》りかけた処を、失礼ですが、」
「いや、もう済んだです。」
その日は珍らしく理学士が玄関まで送って出た。
絹足袋の、静《しずか》な畳ざわりには、客の来たのを心着かなかった鞠子の婢《おさん》も、旦那様の踏みしだいて出る跫音《あしおと》に、ひょっこり台所《だいどこ》から顔を見せる。
「
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