う》が詩《し》に、屏風誤點惑孫郎《びやうぶあやまりてんじてそんらうをまどはす》。團扇草書輕内史《だんせんのさうしよないしをかろんず》。
 吾《われ》聞《き》く、魏《ぎ》の明帝《めいてい》、洛水《らくすゐ》に遊《あそ》べる事《こと》あり。波《なみ》蒼《あを》くして白獺《はくだつ》あり。妖婦《えうふ》の浴《よく》するが如《ごと》く美《び》にして愛《あい》す可《べ》し。人《ひと》の至《いた》るを見《み》るや、心《こゝろ》ある如《ごと》くして直《たゞ》ちに潛《かく》る。帝《てい》頻《しきり》に再《ふたゝ》び見《み》んことを欲《ほつ》して終《つひ》に如何《いかん》ともすること能《あた》はず。侍中《じちう》進《すゝ》んで曰《いは》く、獺《だつ》や鯔魚《しぎよ》を嗜《たし》む、猫《ねこ》にまたゝびと承《うけたまは》る。臣《しん》願《ねがは》くは是《これ》を能《よ》くせんと、板《いた》に畫《ゑが》いて兩生《りやうせい》の鯔魚《しぎよ》を躍《をど》らし、岸《きし》に懸《か》けて水《みづ》を窺《うかゞ》ふ。未《いま》だ數分《すうふん》ならざるに、群獺《ぐんだつ》忽《たちま》ち競逐《きそひお》うて、勢《いきおひ》死《し》を避《さ》けず、執得《とらへえ》て輙《すなはち》獻《けん》ず。鯔魚《しぎよ》を畫《ゑが》くものは徐景山《じよけいざん》也《なり》。
 劉填《りうてん》が妹《いもうと》は陽王《やうわう》の妃《ひ》なり。陽王《やうわう》誅《ちう》せられて後《のち》追慕《つゐぼ》哀傷《あいしやう》して疾《やまひ》となる。婦人《ふじん》の此《この》疾《やまひ》古《いにしへ》より癒《い》ゆること難《かた》し。時《とき》に殷※[#「くさかんむり/倩」、58−7]《いんせん》善《よ》く畫《ゑが》く、就中《なかんづく》人《ひと》の面《おもて》を寫《うつ》すに長《ちやう》ず。劉填《りうてん》密《ひそか》に計《はかりごと》を案《あん》じ、※[#「くさかんむり/倩」、58−7]《せん》に命《めい》じて鏡中《きやうちう》雙鸞《さうらん》の圖《づ》を造《つく》らしむ、圖《づ》する處《ところ》は、陽王《やうわう》其《そ》の寵姫《ちようひ》の肩《かた》を抱《いだ》き、頬《ほゝ》を相合《あひあは》せて、二人《ふたり》ニヤ/\として將《まさ》に寢《い》ねんと欲《ほつ》するが如《ごと》きもの。舌《した》たるくして面《おもて
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