はい》にも、くらわされてしかるべきは自分の方で、仏壇のあるわが家には居たたまらないために、その場から門《かど》を駈け出したは出たとして、知合《ちかづき》にも友だちにも、女房に意見をされるほどの始末で見れば、行き処《どころ》がなかったので、一夜《ひとよ》しのぎに、この木曾谷まで遁げ込んだのだそうでございます、遁げましたなあ。……それに、その細君というのが、はじめ画師《えかき》さんには恋人で、晴れて夫婦になるのには、この学士先生が大層なお骨折りで、そのおかげで思いが叶《かな》ったと申したようなわけだそうで。……遁げ込み場所には屈竟《くっきょう》なのでございました。
時に、弱りものの画師さんの、その深い馴染というのが、もし、何と……お艶様――手前どもへ一人でお泊まりになったその御婦人なんでございます。……ちょいと申し上げておきますが、これは画師さんのあとをたずねて、雪を分けておいでになったのではございません。その間がざっと半月ばかりございました。その間に、ただいま申しました、姦通《まおとこ》騒ぎが起こったのでございます。」
と料理番は一息した。
「そこで……また代官|婆《ばば》に変な癖が
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