ぐ。私《てまい》なぞは見物の方で、お社《やしろ》前は、おなじ夥間《なかま》で充満《いっぱい》でございました。
二百十日の荒れ前で、残暑の激しい時でございましたから、ついつい少しずつお社の森の中へ火を見ながら入りましたにつけて、不断は、しっかり行くまじきとしてある処《ところ》ではございますが、この火の陽気で、人の気の湧《わ》いている場所から、深いといっても半町とはない。大丈夫と。ところで、私《てまい》陰気もので、あまり若衆《わかしゅ》づきあいがございませんから、誰を誘うでもあるまいと、杉檜《すぎひのき》の森々としました中を、それも、思ったほど奥が深くもございませんで、一面の草花。……白い桔梗《ききょう》でへりを取った百畳敷ばかりの真青《まっさお》な池が、と見ますと、その汀《みぎわ》、ものの二……三……十間とはない処に……お一人、何ともおうつくしい御婦人が、鏡台を置いて、斜めに向かって、お化粧をなさっていらっしゃいました。
お髪《ぐし》がどうやら、お召ものが何やら、一目見ました、その時の凄《すご》さ、可恐《おそろ》しさと言ってはございません。ただいま思い出しましても御酒《ごしゅ》が氷に
前へ
次へ
全66ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング