、夥間《なかま》の飲友達の、遊び呆《ほう》けて、多日《しばらく》寄附《よりつ》かなかった本郷の叔母さんの許《もと》を訪ねたのがあった。お柏で寝る夜具より三倍ふっくらした坐蒲団《すわりぶとん》。濃いお茶が入って、お前さんの好きな藤村の焼ぎんとんだよ、おあがり、今では宗旨が違うかい。連雀《れんじゃく》の藪蕎麦が近いから、あの佳味《おいし》いので一銚子、と言われて涙を流した。親身の情……これが無銭《ただ》である。さても、どれほどの好男《いいおとこ》に生れ交《かわ》って、どれほどの金子《かね》を使ったら、遊んでこれだけ好遇《もて》るだろう。――しかるにもかかわらず、迷いは、その叔母さんに俥賃を強請《ゆす》って北廓《なか》へ飛んだ。耽溺《たんでき》、痴乱、迷妄《めいもう》の余り、夢とも現《うつつ》ともなく、「おれの葬礼《とむらい》はいつ出る。」と云って、無理心中かと、遊女《おいらん》を驚かし、二階中を騒がせた男がある。
これにつけ、またそれよ、壱岐殿坂で鼠の印《いん》を結んでより、雪の中を傘なしで、池の端まで、などと云うにつけても、天保銭を車に積んで切通しを飛んだ、思案入道殿の方が柄が大きい。
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