》、おぼろげならぬ殿ぶりを、見初《みそ》めて、そめて、恥かしの、森の下露、思いは胸に、」
と早饒舌《はやしゃべ》りの一息にやってのけ、
「わあい……光邦、妖術にかかって、宙に釣られて、ふらふらしてるよ。」
背中にひったり、うしろ姿でお京が立ったのを、弱った糸七は沓脱《くつぬぎ》がないから、拭いた足を、成程釣られながら、密《そっ》と振向いて見ると、愁《うれい》を瞼《まぶた》に含めて遣瀬《やるせ》なさそうに、持ち忘れたもののような半※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《ハンケチ》が、宙に薄青く、白昼《まひる》の燐火《おにび》のように見えて、寂しさの上に凄《すご》いのに、すぐ目を反らして首垂《うなだ》れた。
お滝が、ひょいと、飛んで傍《そば》へ来て、
「きれいなお姉ちゃん、少しお動きよ。」
「はい、動きましょう。」
と、縁をうつくしい褄捌《つまさば》き、袖の動きに半※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]を持添えて、お滝の掌《てのひら》へ、ひしと当てた。
「これ、雑巾のおうつりです。」
「あら、あら、私に。」
「でも新しいんですから。」
お滝は受けた半※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]を、前髪に当て、額に当て、頬に当て、頬摺《ほおずり》して、肩へかけ、胸に抱《いだ》いた、その胸ではらりと拡げ、小腕を張って、目を輝かして身を反らし、
「さてこそさてこそ、この旗を所持なすからは、問うに及ばず、将門《まさかど》が忘れがたみ、滝夜叉姫であろうがな。」
「何だ、あべこべじゃないか、違ってら。」
「チエエ、残念や、口おしや、かくなるうえは何をかつつまん、まこと我こそ――滝夜叉なるわ。どろんどろん、」
と、あとしざりに、
「……帯だって出来るわ、この半※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]。嬉しい! 花嫁さん、ありがとう、お楽しみ光邦様、どろんどろん。」
木戸も閉めないで、トンと行《ゆ》く。
「――何とも、かとも、言いようはありません。」
すぐにお京を招じ入れた、というよりも、お京はひとりでに、ものあって誘うように、いま居た四畳半の縁の障子と、格子戸見通しの四畳を隔てた破襖《やれぶすま》の角柱で相合うその片隅に身を置いたし、糸七は窓下の机の、此方《こなた》へ、炉を前にすると同時に、いきなり頭《こうべ》を下げて、せき込んで言ったのである。
「何とも、かとも、い
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