《こう》の知合からはじまった事らしいのに、妙に自分を除外して、荷高ばかりを廻しているし、第一、中洲がだね、二三度、その店へ行《ゆ》きながら、糸|的《こう》のうわさなぞをしないらしいのは、おかしいじゃないか。」
「ちっともしない、何にも言わない。またこっちも、うわさなんかして貰いたくないんだよ。」
――(様子を見ると、仔細《しさい》は什※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《いかに》、京子が『たそがれ』を借りた事など、女房は、それに一言も及ばぬらしい。)――
「ただ、いかんせん、亭主に高利の借がある。催促が厳しいんだ。亭主の催促が厳しいのに――そこを蔭になり、日向になり、「あなたア」などとその目でじろりと遣るだろう……白肉の柔い楯《たて》になって、庇《かば》ってくれようという――女房を、その上に、近い頃また痛めつけた。」
「誰だい、髑髏かい、竹如意かい。」
「また急込《せきこ》むよ。中洲の話になってからというものは、どうも、骨董《こっとう》はあせって不可《いけな》い。話の続きでも知れてるじゃないか。……高利の借りぬし、かくいう牛骨、私とそれに弁持十二さ。」
「何だ二人でか、まさか、そんな竹如意、髑髏の亜流のごとき……」
「黙るよ、私は。失礼な、素人を馬鹿な、誰が失礼を。」
「はやまった、言《ことば》のはずみだ、逸外《はやま》った。その短銃《たんづつ》を、すぐに引掴《ひっつか》んで引金を捻《ひね》くるから殺風景だ。」
「けれどもね。実は、その時の光景というのが、短銃と短刀同然だったよ。弁持と二人で、女房を引挟《ひっぱさ》んで。」
といって、苦笑した。
三十二
「――何ね、義理と附合で、弁持と二人で出掛けなくちゃならない葬式《とむらい》があった、青山の奥の裏寺さ。不断は不断、お儀式の時の、先生のいいつけが厳しい。……というのは羽織袴です――弁持も私も、銀行は同一《おなじ》取引の資産家だから、出掛けに、捨利《すてり》で一着に及んだ礼服を、返りがけに質屋の店さきで、腰を掛けながら引剥《ひっぱ》ぐと、江戸川べりの冬空に――いいかね――青山から、歩行《てく》で一度中の橋手前の銀行へ寄ったんだ。――着流《きながし》と来て、袂《たもと》へ入れた、例の菓子さ、紫蘇入《しそいり》の塩竈《しおがま》が両提《ふたつさげ》の煙草入と一
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