さうな、渋《しぶ》の大傘《おおからかさ》を畳《たた》んで肩にかついだのが、法壇の根に顕《あらわ》れた。――此は怪《け》しからず、天津乙女《あまつおとめ》の威厳と、場面の神聖を害《そこな》つて、何《ど》うやら華魁《おいらん》の道中じみたし、雨乞《あまごい》には些《ち》と行過《ゆきす》ぎたもののやうだつた。が、何、降るものと極《きま》れば、雨具《あまぐ》の用意をするのは賢い。……加ふるに、紫玉が被《かつ》いだ装束は、貴重なる宝物《ほうもつ》であるから、驚破《すわ》と言はばさし掛けて濡《ぬ》らすまいための、鎌倉殿の内意《ないい》であつた。
 ――然《さ》ればこそ、此のくらゐ、注意の役に立つたのはあるまい。――
 あはれ、身のおき処《どころ》がなく成つて、紫玉の裾《すそ》が法壇に崩れた時、「状《ざま》を見ろ。」「や、身を投げろ。」「飛込《とびこ》め。」――わツと群集の騒いだ時、……堪《たま》らぬ、と飛上《とびあが》つて、紫玉を圧《おさ》へて、生命《いのち》を取留《とりと》めたのも此の下男で、同時に狩衣《かりぎぬ》を剥《は》ぎ、緋の袴《はかま》の紐《ひも》を引解《ひきほど》いたのも――鎌倉殿のた
前へ 次へ
全63ページ中51ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング