の。……
 森を高く抜けると、三国|見霽《みはら》しの一面の広場になる。赫《かっ》と射る日に、手廂《てびさし》してこう視《なが》むれば、松、桜、梅いろいろ樹の状《さま》、枝の振《ふり》の、各自《おのおの》名ある神仙の形を映すのみ。幸いに可忌《いまわし》い坊主の影は、公園の一|木《ぼく》一草をも妨げず。また……人の往来《ゆきか》うさえほとんどない。
 一処《ひとところ》、大池があって、朱塗の船の、漣《さざなみ》に、浮いた汀《みぎわ》に、盛装した妙齢《としごろ》の派手な女が、番《つがい》の鴛鴦《おしどり》の宿るように目に留った。
 真白な顔が、揃ってこっちを向いたと思うと。
「あら、お嬢様。」
「お師匠さーん。」
 一人がもう、空気草履の、媚《なまめ》かしい褄捌《つまさば》きで駆けて来る。目鼻は玉江。……もう一人は玉野であった。
 紫玉は故郷へ帰った気がした。
「不思議な処で、と言いたいわね。見ぶつかい。」
「ええ、観光団。」
「何を悪戯《いたずら》をしているの、お前さんたち。」
 と連立って寄る、汀に居た玉野の手には、船首《みよし》へ掛けつつ棹《さお》があった。
 舷《ふなばた》は藍《あ
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