くれげ》を掻いたついでに、白金《プラチナ》の高彫《たかぼり》の、翼に金剛石《ダイヤ》を鏤《ちりば》め、目には血膸玉《スルウドストン》、嘴《くちばし》と爪に緑宝玉《エメラルド》の象嵌《ぞうがん》した、白く輝く鸚鵡《おうむ》の釵《かんざし》――何某《なにがし》の伯爵が心を籠めた贈《おくり》ものとて、人は知って、(伯爵)と称《とな》うるその釵を抜いて、脚を返して、喫掛《のみか》けた火皿の脂《やに》を浚《さら》った。……伊達《だて》の煙管《きせる》は、煙を吸うより、手すさみの科《しぐさ》が多い慣習《ならい》である。
三味線背負った乞食坊主が、引掻《ひっか》くようにもぞもぞと肩を揺《ゆす》ると、一眼ひたと盲《し》いた、眇《めっかち》の青ぶくれの面《かお》を向けて、こう、引傾《ひっかたが》って、熟《じっ》と紫玉のその状《さま》を視ると、肩を抽《ぬ》いた杖《つえ》の尖《さき》が、一度胸へ引込《ひっこ》んで、前屈《まえかが》みに、よたりと立った。
杖を径《こみち》に突立て突立て、辿々《たどたど》しく下闇《したやみ》を蠢《うごめ》いて下りて、城の方《かた》へ去るかと思えば、のろく後退《あとじさり》を
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