法づかひだ、主殺《しゅころ》しと、可哀相に、此の原で磔《はりつけ》にしたとかいふ。
 日本一《にっぽんいち》の無法な奴等《やつら》、かた/″\殿様のお伽《とぎ》なればと言つて、綾錦《あやにしき》の粧《よそおい》をさせ、白足袋《しろたび》まで穿《は》かせた上、犠牲《いけにえ》に上げたとやら。
 南無三宝《なむさんぼう》、此の柱へ血が垂れるのが序開《じょびら》きかと、其《その》十字の里程標の白骨《はっこつ》のやうなのを見て居る中《うち》に、凭《よっ》かゝつて居た停車場《ステエション》の朽《く》ちた柱が、風もないに、身体《からだ》の圧《おし》で動くから、鉄砲を取直《とりなお》しながら後退《あとじさ》りに其処《そこ》を出た。
 雨は其の時から降り出して、それからの難儀さ。小糠雨《こぬかあめ》の細《こまか》いのが、衣服《きもの》の上から毛穴を徹《とお》して、骨に染《し》むやうで、天窓《あたま》は重くなる、草鞋《わらじ》は切れる、疲労《つかれ》は出る、雫《しずく》は垂《た》る、あゝ、新しい筵《むしろ》があつたら、棺《かん》の中へでも寝たいと思つた、其で此の家を見つけたんだもの、何の考へもなしに駈《
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