うに聞くから言ふんだが、何も其の何《ど》うしよう、恁《こ》うしようといふ悪気《わるぎ》はない。
好事《ものずき》さ、好事《ものずき》で、変つた話でもあつたら聞かう、不思議なことでもあるなら見ようと思ふばかり、しかしね、其を見聞《みき》くにつけては、どんな又|対手《あいて》に不心得があつて、危険《けんのん》でないとも限らぬから、其処《そこ》で恁《こ》う、用心の銃をかついで、食べる物も用意した。
台場《だいば》の停車場《ステエション》から半道《はんみち》ばかり、今朝《けさ》此《この》原へかゝつた時は、脚絆《きゃはん》の紐《ひも》も緊乎《しっかり》と、草鞋《わらじ》もさツ/\と新しい踏心地《ふみごこち》、一面に霧のかゝつたのも、味方の狼煙《のろし》のやうに勇《いさま》しく踏込《ふみこ》むと、さあ、一《ひと》ツ一《ひと》ツ、萱《かや》にも尾花にも心を置いて、葉末《はずえ》に目をつけ、根を窺《うかが》ひ、まるで、美しい蕈《きのこ》でも捜す形。
葉ずれの音がざわ/\と、風が吹く度《たび》に、遠くの方で、
(主《ぬし》あるものですが、)とでも囁《ささや》いて居るやうで、頼母《たのも》しいにつけても、髑髏《しゃれこうべ》の形をした石塊《いしころ》でもないか、今にも馬の顔《つら》が出はしないかと、宝の蔓《つる》でも手繰《たぐ》る気で、茅萱《ちがや》の中の細路《ほそみち》を、胸騒《むなさわぎ》がしながら歩行《ある》いたけれども、不思議なものは樹《き》の根にも出会《でっくわ》さない、唯《ただ》、彼《あ》のこはれ/″\の停車場《ステエション》のあとへ来た時、雨露《あめつゆ》に曝《さら》された十字の里程標《りていひょう》が、枯草《かれくさ》の中に、横になつて居るのを見て、何となく荒野《あれの》の中の磔柱《はりつけばしら》ででもあるやうに思つた。
おゝ、然《そ》ういへば沢山《たんと》古い昔ではない、此の国の歴々《れきれき》が、此処《ここ》に鷹狩《たかがり》をして帰りがけ、秋草《あきぐさ》の中に立つて居た媚《なまめ》かしい婦人《おんな》の、あまりの美しさに、予《かね》ての色好《いろごの》み、うつかり見惚《みと》れるはずみに鞍《くら》を外《はず》して落馬した、打処《うちどころ》が病《やまい》のもとで、あの婦人《おんな》ともを為《さ》せろ、と言《い》ひ死《じに》に亡くなられた。
あとでは魔
前へ
次へ
全28ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング