《ねぐら》をかえるらしく思われる。
 あの、仔雀が、チイチイと、ありッたけ嘴《くちばし》を赤く開けて、クリスマスに貰《もら》ったマントのように小羽を動かし、胸毛をふよふよと揺《ゆる》がせて、こう仰向《あおむ》いて強請《ねだ》ると、あいよ、と言った顔色《かおつき》で、チチッ、チチッと幾度《いくたび》もお飯粒《まんまつぶ》を嘴から含めて遣《や》る。……食べても強請《ねだ》る。ふくめつつ、後《あと》ねだりをするのを機掛《きっかけ》に、一粒|銜《くわ》えて、お母《っか》さんは塀《へい》の上――(椿《つばき》の枝下《えだした》で茲《ここ》にお飯《まんま》が置いてある)――其処《そこ》から、裏露地を切って、向うの瓦屋根《かわらやね》へフッと飛ぶ。とあとから仔雀がふわりと縋《すが》る。これで、羽を馴らすらしい。また一組は、おなじく餌《え》を含んで、親雀が、狭い庭を、手水鉢《ちょうずばち》の高さぐらいに舞上《まいあが》ると、その胸のあたりへ附着《くッつ》くように仔雀が飛上《とびあが》る。尾を地へ着けないで、舞いつつ、飛びつつ、庭中を翔廻《かけまわ》りなどもする、やっぱり羽を馴らすらしい。この舞踏が一斉
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