。中でも音頭取《おんどとり》が、電柱の頂辺《てっぺん》に一羽|留《とま》って、チイと鳴く。これを合図に、一斉《いっとき》にチイと鳴出す。――塀《へい》と枇杷《びわ》の樹の間に当って。で御飯をくれろと、催促をするのである。
 私が即《すなわ》ち取次いで、
「催促《やっ》てるよ、催促《やっ》てるよ。」
「せわしないのね。……煩《うるさ》いよ。」
 などと言いながら、茶碗に装《よそ》って、婦《おんな》たちは露地へ廻る。これがこのうえ後《おく》れると、勇悍《ゆうかん》なのが一羽|押寄《おしよ》せる。馬に乗った勢《いきおい》で、小庭を縁側《えんがわ》へ飛上《とびあが》って、ちょん、ちょん、ちょんちょんと、雀あるきに扉《ひらき》を抜けて台所へ入って、お竈《へッつい》の前を廻るかと思うと、上の引窓《ひきまど》へパッと飛ぶ。
「些《ち》と自分でもお働き、虫を取るんだよ。」
 何も、肯分《ききわ》けるのでもあるまいが、言《ことば》の下に、萩《はぎ》の小枝を、花の中へすらすら、葉の上はさらさら……あの撓々《たよたよ》とした細い枝へ、塀の上、椿《つばき》の樹からトンと下りると、下りたなりにすっと辷《すべ》っ
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