、いい天気で、閑《しずか》な折から、雀が一羽、……丁《ちょう》ど目白鳥の上の廂合《ひあわい》の樋竹《といだけ》の中へすぽりと入って、ちょっと黒い頭だけ出して、上から籠を覗込《のぞきこ》む。嘴《はし》に小さな芋虫《いもむし》を一つ銜《くわ》え、あっち向いて、こっち向いて、ひょいひょいと見せびらかすと、籠の中のは、恋人から来た玉章《たまずさ》ほどに欲しがって駈上《かけあが》り飛上《とびあが》って取ろうとすると、ひょいと面《かお》を横にして、また、ちょいちょいと見せびらかす。いや、いけずなお転婆《てんば》で。……ところがはずみに掛《かか》って振った拍子《ひょうし》に、その芋虫をポタリと籠の目へ、落したから可笑《おかし》い。目白鳥は澄まして、ペロリと退治《たいじ》た。吃驚仰天《びっくりぎょうてん》した顔をしたが、ぽんと樋《とい》の口を突出《つきだ》されたように飛んだもの。
瓢箪《ひょうたん》に宿る山雀《やまがら》、と言う謡《うた》がある。雀は樋の中がすきらしい。五、六羽、また、七、八羽、横にずらりと並んで、顔を出しているのが常である。
或《ある》殿《との》が領分巡回《りょうぶんめぐり》の途
前へ
次へ
全41ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング