《つ》いて、直ぐ目の下を、前髪に手庇《てびさし》して覗込《のぞきこ》む。
この度は、場処を替えようとするらしい。
斜《ななめ》に甲羅を、板に添って、手を掛けながら、するすると泳ぐ。これが、棹《さお》で操るがごとくになって、夥多《あまた》の可《いい》心持に乾いた亀の子を、カラカラと載《の》せたままで、水をゆらゆらと流れて辷った。が、熟《じっ》として嚔《くしゃみ》したもの一つない。
板の一方は細いのである。
そこへ、手を伸ばすと、腹へ抱込《かかえこ》めそうに見えた。
いや、困った事は、重量《おもみ》に圧《お》されて、板が引傾《ひっかたむ》いたために、だふん、と潜る。
「ほい、しまった。いや、串戯《じょうだん》じゃない。しっかり頼むぜ。」
と、男衆は欄干をトントン叩く。
あせる、と見えて、むらむらと紋が騒ぐ、と月影ばかり藻が分れて、端を探り探り手が掛《かか》った。と思うと、ずぼりと出る。
「蛙《かわず》だと青柳硯《あおやぎすずり》と云うんです。」
「まったくさ。」
十七
けれども、その時もし遂げなかった。
「ああ、惜《おし》い。」
男衆も共に、ただ一息と思
前へ
次へ
全104ページ中57ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング