圧《おさ》えて、
「人が立騒いで邪魔したら、撒散《まきちら》かいて払い退《の》きょうと、お前に預けた、金貨銀貨が、その懐中《ふところ》に沢山《たんと》ある。不思議な事で、使わいで済んだよって、それもって、な、えらい不足なやろけれど、不足、不足なやろけれど、……ああ、術ない、もう身がなえて声も出ぬ。
 お聞きやす、多一さん、美津《みい》さんは、一所に連れずと、一人|活《い》かいておきたかった。貴方《あんた》と二人、人は交ぜず、死ぬのが私は本望なが、まだこの上、貴方にも美津さんにも、済まん事や思うたによってな。
 違うたかえ、分ったかえ、冥土《めいど》へ行てかて、二人をば並べておく、……遣瀬《やるせ》ない、私の身にもなってお見や。」
 幽《かすか》ながらに声は透《とお》る。
「多一さん、手を取って……手を取って……離さずと……――左のこの手の動く方は、義理やあの娘《こ》の手をば私が引く。……さあ、三人で行こうな。」
 と床几を離れて、すっくと立つ。身動《みじろ》ぎに乱るる黒髪。髻《もとどり》ふつ、と真中《まんなか》から二岐《ふたすじ》に颯《さっ》となる。半ばを多一に振掛けた、半ばを握って捌
前へ 次へ
全104ページ中102ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング