《たいら》、大日枝《おおひだ》、山岨《やまそば》を断崕《きりぎし》の海に沿う新道《しんみち》は、崖くずれのために、全く道の塞《ふさが》った事は、もう金沢を立つ時から分っていた。
 前夜、福井に一泊して、その朝六《あさむ》つ橋《ばし》、麻生津を、まだ山かつらに月影を結ぶ頃、霧の中を俥《くるま》で過ぎて、九時頃武生に着いたのであった。――誰もいう……此処《ここ》は水の美しい、女のきれいな処である。柳屋《やなぎや》の柳の陰に、門《かど》走《はし》る谿河《たにがわ》の流《ながれ》に立つ姿は、まだ朝霧をそのままの萩《はぎ》にも女郎花《おみなえし》にも較べらるる。が、それどころではない。前途《ゆくて》のきづかわしさは、俥《くるま》もこの宿《しゅく》で留《と》まって、あとの山路は、その、いずれに向っても、もはや通じないと言うのである。
 茶店の縁《えん》に腰を掛けて、渋茶を飲みながら評議をした。……春日野の新道《しんみち》一条《ひとすじ》、勿論《もちろん》不可《いけな》い。湯《ゆ》の尾《お》峠にかかる山越え、それも覚束《おぼつか》ない。ただ道は最も奥で、山は就中《なかんずく》深いが、栃木《とちのき》
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