栃の実
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)朝六《あさむ》つ

|:|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一挺|掛《かか》った

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]
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 朝六《あさむ》つの橋を、その明方《あけがた》に渡った――この橋のある処《ところ》は、いま麻生津《あそうづ》という里である。それから三里ばかりで武生《たけふ》に着いた。みちみち可懐《なつかし》い白山《はくさん》にわかれ、日野《ひの》ヶ峰《みね》に迎えられ、やがて、越前の御嶽《みたけ》の山懐《やまふところ》に抱《だ》かれた事はいうまでもなかろう。――武生は昔の府中《ふちゅう》である。
 その年は八月中旬、近江《おうみ》、越前の国境《くにざかい》に凄《すさま》じい山嘯《やまつなみ》の洪水《でみず》があって、いつも敦賀《つるが》――其処《そこ》から汽車が通じていた――へ行《ゆ》く順路の、春日野峠《かすがのとうげ》を越えて、大良
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