穿物なり、携帯品なり、金を懸《か》くれば際限あらず。以上に列記したるものを、はじめをはり取|揃《そろ》へむか、いくら安く積《つも》つて見ても……やつぱり少しも安からず、男子《おとこ》は裸百貫にて、女は着た処が、千両々々。
羽織、半纏、或は前垂《まへだれ》、被布《ひふ》なんどいふものの此外になほ多けれどいづれも本式のものにあらず、別に項《かう》を分ちて以て礼服とともに詳記《しやうき》すべし。
肌着《はだぎ》
最も膚に親しき衣なり、数百金の盛装をなす者も多くは肌着に綿布を用ふ、別に袖もなし、裏はもとよりなり、要するにこれ一片の汗取《あせとり》に過ぎず。
半襦袢《はんじゆばん》
肌着の上に着《ちやく》す、地《ぢ》の色《いろ》、衣《きぬ》の類、好によりていろ/\あらむ。袖は友染か、縮緬か、いづれ胴とは異なるを用ふ、裏なき衣なり。
長襦袢《ながじゆばん》
半襦袢の上に着く、いはゆる蹴出しの全身なり。衣服の内、これを最も派手なるものとす、緋縮緬、友染等、やゝふけたる婦人にてもなほ密かにこの花やかなるを着けて思出とするなり。蓮歩《れんぽ》を移す裾捌《すそさばき》にはら/\とこぼるゝ風情、蓋し散る花のながめに過ぎたり。紅裙《こうくん》三|尺《じやく》魂《たましひ》を裹《つつ》むいくばくぞや。
蹴出《けだし》
これ当世の腰巻なり。肌に長襦袢を着ることなるが、人には見えぬ処にて、然も端物《はもの》の高価なるを要するより経済上、襦袢を略して半襦袢とし、腰より下に、蹴出を纏ひて、これを長襦袢の如く見せ懸けの略服なりとす、表は友染染《いうぜんぞめ》、緋縮緬などを用ゐ裏には紅絹《もみ》甲斐絹《かひき》等《とう》を合《あは》す、すなわち一枚にて幾種の半襦袢と継合《つぎあ》はすことを得《え》、なほ且長襦袢の如く白き脛《はぎ》にて蹴出すを得るなり、半襦袢と継合はすために紐を着けたり、もし紐を着けざるには、ずり落ざるため強き切《きれ》を其《その》引纏《ひきまと》ふ部分に継ぐ。
半襟《はんえり》
襦袢の襟に別にまたこれを着《つ》く、三枚襲《さんまいがさね》の外部にあらはるゝ服装にして、謂はば一種の襟飾なり。最も色合と模様は人々の好に因る、金糸《きんし》にて縫ひたるもあり、縮緬、綾子《りんず》、絽《ろ》、等を用ふ。別に不断着物《ふだんぎもの》及び半纏《はんてん》に着《つ》くるもの、おなじく半襟と謂ふ。これには黒繻子、毛繻子、唐繻子、和繻子、織姫、南京黒八丈《なんきんくろはちぢやう》、天鵞絨《びろうど》など種々《しゆじゆ》あり。
下着《したぎ》
三枚襲《さんまいがさね》の時は衣地《きぬぢ》何《なに》にても三枚皆整ふべきを用ふ。たゞの下着は、八丈《はちぢやう》、糸織《いとおり》、更紗縮緬《さらさちりめん》お召等、人々の好みに因る、裏は本緋《ほんひ》、新緋《しんひ》等なり。
合着《あひぎ》
これも下着と大差なし、但し下着もこの合着も一体に上着よりは稍派手なるを用ゐるなり。
上着《うはぎ》
衣の地は殆ど枚挙に遑《いとま》あらず。四季をり/\、年齢、身分などにより人々の好あらむ、編者《へんしや》は敢て関《くわん》せざるなり。
比翼《ひよく》
一体三枚襲には上着も合着もはた下着も皆別々にすべきなれども、細身《さいしん》、柳腰《りうえう》の人、形態《けいたい》の風《かぜ》にも堪へざらむ、さまでに襲着《かさねぎ》してころ/\見悪《みにく》からむを恐れ、裾と袖口と襟とのみ二枚重ねて、胴はたゞ一枚になし、以て三枚襲に合せ、下との兼用に充《あ》つるなり、これを比翼といふ。甚だ外形をてらふ処の卑怯なる手段の如くなれども比翼といへばそれにて通り、我もやましからず、人も許すなり。
腰帯《こしおび》
衣服を、はおれる後、裾の長きを引上げて一幅《ひとはゞ》の縮緬にて腰を緊《し》め、然る後に衣紋《えもん》を直し、胸襟《きようきん》を整ふ、この時用ゐるを腰帯といふ、勿論外形にあらわれざる処、色は紅白、人の好に因る、価値《あたひ》の低きはめりんすもあり。
下〆《したじめ》
腰帯を〆めてふくらみたる胸の衣《きぬ》を下に推下《おしさ》げたる後、乳《ちゝ》の下に結ぶもの下〆《したじめ》なり、品類は大抵同じ、これも外には見えざるなり、近頃|花柳《くわりう》の艶姐《えんそ》、経済上、彼の腰帯とこの下〆とを略して一筋にて兼用《かねもち》ふ、すなわち腰を結びたる切《きれ》の余《あまり》を直ちに引上げて帯の下〆にしたるなり。其腰と帯との間にとき色縮緬など下〆のちらりと見ゆる処、頗る意気なりと謂ふものあり。
帯
一寸の虫にも五分の
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