も、補助席二脚へ揉合《もみあ》って[#「揉合《もみあ》って」は底本では「揉合《もみあ》つて」]乗ると斉《ひと》しく、肩を組む、頬を合わせる、耳を引張《ひっぱ》る、真赤《まっか》な洲浜形《すはまがた》に、鳥打帽を押合って騒いでいたから。
戒《いましめ》は顕われ、しつけは見えた。いまその一弾指のもとに、子供等は、ひっそりとして、エンジンの音|立処《たちどころ》に高く響くあるのみ。その静《しずか》さは小県ただ一人の時よりも寂然《ひっそり》とした。
なぜか息苦しい。
赤い客は咳《しわぶき》一つしないのである。
小県は窓を開放って、立続《たてつ》けて巻莨《まきたばこ》を吹かした。
しかし、硝子《がらす》を飛び、風に捲《ま》いて、うしろざまに、緑林に靡《なび》く煙は、我が単衣《ひとえ》の紺のかすりになって散らずして、かえって一抹《いちまつ》の赤気《せっき》を孕《はら》んで、異類異形に乱れたのである。
「きみ、きみ、まだなかなかかい。」
「屋根が見えるでしょう――白壁が見えました。」
「留まれ。」
その町の端頭《はずれ》と思う、林道の入口の右側の角に当る……人は棲《す》まぬらしい、壊屋《こわれや》の横羽目に、乾草《ほしくさ》、粗朶《そだ》が堆《うずたか》い。その上に、惜《おし》むべし杉の酒林《さかばやし》の落ちて転んだのが見える、傍《わき》がすぐ空地の、草の上へ、赤い子供の四人が出て、きちんと並ぶと、緋の法衣《ころも》の脊高が、枯れた杉の木の揺《ゆら》ぐごとく、すくすくと通るに従って、一列に直って、裏の山へ、夏草の径《こみち》を縫って行《ゆ》く――この時だ。一番あとのずんぐり童子が、銃を荷《にな》った嬉しさだろう、真赤な大《おおき》な臀《しり》を、むくむくと振って、肩で踊って、
「わあい。」
と馬鹿調子のどら声を放す。
ひょろ長い美少年が、
「おうい。」
と途轍《とてつ》もない奇声を揚げた。
同時に、うしろ向きの赤い袖が飜《ひるがえ》って、頭目は掌《てのひら》を口に当てた、声を圧《おさ》えたのではない、笛を含んだらしい。ヒュウ、ヒュウと響くと、たちまち静《しずか》に、粛々として続いて行《ゆ》く。
すぐに、山の根に取着いた。が草深い雑木の根を、縦に貫く一列は、殿《しんがり》の尾の、ずんぐり、ぶつりとした大赤楝蛇《おおやまかがし》が畝《うね》るようで、あのヘルメ
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