………
お蔦 串戯《じょうだん》じゃ、――貴方、なさそうねえ。
早瀬 洒落《しゃれ》や串戯で、こ、こんな事が。俺は夢になれと思っている。
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※[#歌記号、1−3−28]跡には二人さし合《あい》も、涙|拭《ぬぐ》うて三千歳が、恨めしそうに顔を見て、
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お蔦 ほんとうなのねえ。
早瀬 俺があやまる、頭を下げるよ。
お蔦 切れるの別れるのッて、そんな事は、芸者の時に云うものよ。……私にゃ死ねと云って下さい。蔦には枯れろ、とおっしゃいましな。
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ツンとしてそがいになる。
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早瀬 お蔦、お蔦、俺は決して薄情じゃない。
お蔦 ええ、薄情とは思いません。
早瀬 誓ってお前を厭《あ》きはしない。
お蔦 ええ、厭かれて堪《たま》るもんですか。
早瀬 こっちを向いて、まあ、聞きなよ。他《ほか》に何も鬱《ふさ》ぐ事はない、この二三日、顔を色を怪《あやし》まれる、屈託はこの事だ。今も言おう、この時言おう、口へ出そうと思っても、朝、目を
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