いる。稲妻を浴びせたように……可哀相《かわいそう》に……チョッいっそ二人で巡礼でも。……いやいや先生に誓った上は。――ええ、俺は困った。どうしよう。(倒るるがごとくベンチにうつむく。)
お蔦 (見て、優しく擦寄る)聞かして下さい、聞かして下さい、私ゃ心配で身体《からだ》がすくむ。(と忙《せわ》しく)早く聞かして下さいな。(と静《しずか》に云う。)
早瀬 俺が死んだと思って聞けよ。
お蔦 可厭《いや》。(烈《はげ》しく再び耳を圧《おさ》う)何を聞くのか知らないけれど、貴下《あなた》この二三日の様子じゃ、雷様より私は可恐《こわ》いよ。
早瀬 (肩に手を置く)やあ、ほんとに、わなわな震えて。
お蔦 ええ、たとい弱くッて震えても、貴方の身替りに死ねとでも云うんなら、喜んで聞いてあげます。貴方が死んだつもりだなんて、私ゃ死ぬまで聞きませんよ。
早瀬 おお、お前も殺さん、俺も死なない、が聞いてくれ。
お蔦 そんなら、……でも、可恐《こわ》いから、目を瞑《ふさ》いで。
早瀬 お蔦。
お蔦 …………
早瀬 俺とこれッきり別れるんだ。
お蔦 ええ。
早瀬 思切って別れてくれ。
お蔦 早瀬さん。
早瀬 …
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