色使と行逢《ゆきあ》いつつ、登場。
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※[#歌記号、1−3−28]|往来《ゆきき》のなきを幸《さいわい》に、人目を忍び彳《たたず》みて、
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仮色使の退場する時、早瀬お蔦と立留《たちどま》る。
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お蔦 貴方《あなた》……貴方。
早瀬 ああ。(と驚いたように返事する。)
お蔦 いい、月だわね。
早瀬 そうかい。
お蔦 御覧なさいな、この景色を。
早瀬 ああ、成程。
お蔦 可厭《いや》だ、はじめて気が付いたように、貴方、どうかしているんだわ。
早瀬 どうかもしていようよ。月は晴れても心は暗闇《やみ》だ。
お蔦 ええ、そりゃ、世間も暗闇でも構いませんわ。どうせ日蔭の身体《からだ》ですもの。……
早瀬 お蔦。(とあらたまる。)
お蔦 あい。
早瀬 済まないな、今更ながら。
お蔦 水臭い、貴方は。……初手《しょて》から覚悟じゃありませんか、ねえ。内証だって夫婦ですもの。私、苦労が楽《たのし》みよ。月も雪もありゃしません。(四辺《あたり》を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みま
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