に及ばず、宮本武蔵、岩見重太郎にも及ばず、ただ篠田の心一つであると悟りましたので、まだ、二日三日も居て介抱もしてやりたかったのではありますけれども、小宮山は自分の力では及ばない事を知り、何よりもまず篠田に逢ってと、こう存じましたので、急がぬ旅ながら早速出立を致しました。
 その柏屋を立ちまする時も、お雪はまだ昨夜《ゆうべ》のまま寝ていたのでありまする。失礼な起しましょうと口々に騒ぐを制して、朝餉《あさげ》も別間において認《したた》め、お前さん方が何も恐《こわ》がる程の事はないのだから、大勢側に附いて看病をしておやんなさいと、暮々も申し残して後髪を引かれながら。
 その日、糸魚川から汽船に乗って、直江津に着きました晩、小宮山は夷屋《えびすや》と云う本町の旅籠屋に泊りました、宵の口は何事も無かったのでありまするが、真夜中にふと同じ衾《しとね》にお雪の寝ているのを、歴々《ありあり》と見ましたので、喫驚《びっくり》する途端に、寝姿が向《むこう》むきになったその櫛巻が溢《こぼ》れて、畳の上へざらりという音。
 枕に着かるるどころではありませぬ、ああ越中と越後と国は変っても、女の念《おもい》は離れ
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