》なら、あれとか、きゃッとか声を立てますのでございますが、どう致しましたのでございますか、別に怖いとも思いませんと、こう遣って。」
と枕に顔を仰向《あおむ》けて、清《すず》しい目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って熟と瞳を据えました。小宮山は悚然《ぞっ》とする。
「そのお神さんが、不思議ではありませんか、ちゃんと私の名を存じておりまして、
(お雪や、お前、あんまり可哀そうだから、私がその病気を復《なお》して上げる、一所においで。)
と立ったまま手を引くように致しましたが、いつの間にやら私の体は、あの壁を抜けて戸外《おもて》へ出まして、見覚《みおぼえ》のある裏山の方へ、冷たい草原の上を、貴方、跣足《はだし》ですたすた参るんでございます。」
十
「零余子《むかご》などを取りに参ります処で、知っておりますんでございますが、そんな家《うち》はある筈《はず》はございません、破家《あばらや》が一軒、それも茫然《ぼんやり》して風が吹けば消えそうな、そこが住居《すまい》なんでございましょう。お神さんは私を引入れましたが、内に入りますと貴方どうでございましょう、土間の上に台があって、荒筵《あらむしろ》を敷いてあるんでございますよ、そこらは一面に煤《すす》ぼって、土間も黴《かび》が生えるように、じくじくして、隅の方に、お神さんと同じ色の真蒼《まっさお》な灯《あかり》が、ちょろちょろと点《とも》れておりました。
(どうだ、お前ここにあるものを知ってるかい。)とお神さんは、その筵の上にあるものを、指《ゆびさし》をして見せますので、私は恐々《こわごわ》覗《のぞ》きますと、何だか厭《いや》な匂のする、色々な雑物《ぞうもつ》がございましたの。
(これはの、皆人を磔《はりつけ》に上げる時に結えた縄だ、)って扱《しご》いて見せるのでございます。私はもう、気味が悪いやら怖いやら、がたがた顫《ふる》えておりますと、お神さんがね、貴方、ざくりと釘を掴《つか》みまして、
(この釘は丑《うし》の時参《ときまいり》が、猿丸の杉に打込んだので、呪《のろい》の念が錆附《さびつ》いているだろう、よくお見。これはね大工が家を造る時に、誤って守宮《やもり》の胴の中へ打込んだものじゃ、それから難破した船の古釘、ここにあるのは女の抜髪、蜥蜴《とかげ》の尾の切れた、ぴちぴち動いてるのを見
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