の社《やしろ》に奉行《ぶぎょう》した時、丑《うし》の時《とき》参詣《まいり》を谷へ蹴込《けこ》んだり、と告《の》った、大権威の摂理太夫は、これから発狂した。
 ――既に、廓《くるわ》の芸妓《げいこ》三人が、あるまじき、その夜《よ》、その怪しき仮装をして内証で練った、というのが、尋常《ただ》ごとではない。
 十日を措《お》かず、町内の娘が一人、白昼、素裸になって格子から抜けて出た。門《かど》から手招きする杢若の、あの、宝玉の錦が欲しいのであった。余りの事に、これは親さえ組留められず、あれあれと追う間《ま》に、番太郎へ飛込んだ。
 市の町々から、やがて、木蓮《もくれん》が散るように、幾人《いくたり》となく女が舞込む。
 ――夜、その小屋を見ると、おなじような姿が、白い陽炎《かげろう》のごとく、杢若の鼻を取巻いているのであった。
[#地から1字上げ]大正七(一九一八)年四月



底本:「泉鏡花集成6」ちくま文庫、筑摩書房
   1996(平成8)年3月21日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第十七卷」岩波書店
   1942(昭和17)年1月24日発行
入力:門田裕志
校正:高柳典子
2007年2月11日作成
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