、やしこばばの唄なんだよ、ひゅうらひゅうら、ツテン、テン、
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やしこばば、うばば、
うば、うば、うばば、
火を一つくれや……」
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 と、唄うに連れて、囃子に連れて、少しずつ手足の科《しな》した、三個《みつ》のこの山伏が、腰を入れ、肩を撓《た》め、首を振って、踊出す。太刀、斧、弓矢に似もつかず、手足のこなしは、しなやかなものである。
 従七位が、首を廻《まわ》いて、笏《しゃく》を振って、臀《いしき》を廻いた。
 二本の幟《のぼり》はたはたと飜り、虚空を落す天狗風。
 蜘蛛の囲の虫|晃々《きらきら》と輝いて、鏘然《しょうぜん》、珠玉《たま》の響《ひびき》あり。
「幾干金《いくら》ですか。」
 般若の山伏がこう聞いた。その声の艶《えん》に媚《なまめ》かしいのを、神官は怪《あやし》んだが、やがて三人とも仮装を脱いで、裸にして縷無《るな》き雪の膚《はだ》を顕《あらわ》すのを見ると、いずれも、……血色うつくしき、肌理《きめ》細かなる婦人《おんな》である。
「銭《ぜに》ではないよ、みんな裸になれば一反ずつ遣《や》る。」
 価《あたい》を問われた時、杢若が蜘蛛の巣を指して、そう言ったからであった。
 裸体に、被《かず》いて、大旗の下を行く三人の姿は、神官の目に、実《げ》に、紅玉《ルビイ》、碧玉《サファイヤ》、金剛石《ダイヤモンド》、真珠、珊瑚を星のごとく鏤《ちりば》めた羅綾《らりょう》のごとく見えたのである。
 神官は高足駄で、よろよろとなって、鳥居を入ると、住居《すまい》へ行《ゆ》かず、階《きざはし》を上《あが》って拝殿に入った。が、額の下の高麗《こうらい》べりの畳の隅に、人形のようになって坐睡《いねむ》りをしていた、十四になる緋《ひ》の袴《はかま》の巫女《みこ》を、いきなり、引立てて、袴を脱がせ、衣《きぬ》を剥《は》いだ。……この巫女は、当年初に仕えたので、こうされるのが掟《おきて》だと思って自由になったそうである。
 宮奴《みやっこ》が仰天した、馬顔の、痩《や》せた、貧相な中年もので、かねて吶《どもり》であった。
「従、従、従、従、従七位、七位様、何《な》、何、何、何事!」
 笏《しゃく》で、ぴしゃりと胸を打って、
「退《すさ》りおろうぞ。」
 で、虫の死んだ蜘蛛の巣を、巫女の頭《かしら》に翳《かざ》したのである。
 かつて、山神
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