っち、ぎらぎら引かれて身体《からだ》一面に血が流れた時は、……私、その、たらたら流れて胸から乳から伝うのが、渇きの留《とま》るほど嬉しかった。莞爾莞爾《にこにこ》したわ。何とも言えない可《い》い心持だったんですよ。お前さんに、お前さんに、……あの時、――一面に染まった事を思出して何とも言えない、いい心持だったの。この襦袢です。斬《き》られたのは、ここだの、ここだの、」
と俊吉の瞶《みは》る目に、胸を開くと、手巾《ハンケチ》を当てた。見ると、顔の色が真蒼《まっさお》になるとともに、垂々《ぽたぽた》と血に染まるのが、溢《あふ》れて、わななく指を洩《も》れる。
俊吉は突伏《つっぷ》した。
血はまだ溢れる、音なき雪のように、ぼたぼたと鳴って留《や》まぬ。
カーンと仏壇のりん[#「りん」に傍点]が響いた。
「旦那様、旦那様。」
「あ。」
と顔を上げると、誰も居ない。炬燵の上に水仙が落ちて、花活《はないけ》の水が点滴《したた》る。
俊吉は、駈下《かけお》りた。
遠慮して段の下に立った女中が驚きながら、
「あれ、まあ、お銚子がつきましてございますが。」
俊吉は呼吸《いき》がはずんで、
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