雄《はやりお》の面々|歯噛《はがみ》をしながら、ひたすら籠城《ろうじょう》の軍議一決。
そのつもりで、――千破矢《ちはや》の雨滴《あまだれ》という用意は無い――水の手の燗徳利《かんどくり》も宵からは傾けず。追加の雪の題が、一つ増しただけ互選のおくれた初夜過ぎに、はじめて約束の酒となった。が、筆のついでに、座中の各自《てんで》が、好《すき》、悪《きらい》、その季節、花の名、声、人、鳥、虫などを書きしるして、揃った処で、一《ひとつ》……何某《なにがし》……好《すき》なものは、美人。
「遠慮は要らないよ。」
悪《にく》むものは毛虫、と高らかに読上げよう、という事になる。
箇条の中に、最好、としたのがあり。
「この最好というのは。」
「当人が何より、いい事、嬉しい事、好な事を引《ひっ》くるめてちょっと金麩羅《きんぷら》にして頬張るんだ。」
その標目《みだし》の下へ、何よりも先に==待人|来《きた》る==と……姓を吉岡と云う俊吉が書込んだ時であった。
襖《ふすま》をすうと開けて、当家の女中が、
「吉岡さん、お宅からお使《つかい》でございます。」
「内から……」
「へい、女中さんがお見え
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