第二菎蒻本
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)夜路《よみち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)隙間|洩《も》る

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》す
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       一

 雪の夜路《よみち》の、人影もない真白《まっしろ》な中を、矢来の奥の男世帯へ出先から帰った目に、狭い二階の六畳敷、机の傍《わき》なる置炬燵《おきごたつ》に、肩まで入って待っていたのが、するりと起直った、逢いに来た婦《おんな》の一重々々《ひとえひとえ》、燃立つような長襦袢《ながじゅばん》ばかりだった姿は、思い懸けずもまた類《たぐい》なく美しいものであった。
 膚《はだ》を蔽《おお》うに紅《くれない》のみで、人の家に澄まし振《ふり》。長年連添って、気心も、羽織も、帯も打解けたものにだってちょっとあるまい。
 世間も構わず傍若無人、と思わねばならないのに、俊吉は別に怪《あやし》まなかった。それは、懐しい、
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