―)
媛神 ほほほほ、(微笑《ほほえ》みつつ寄りて、蘆毛の鼻頭《はなづら》を軽く拊《う》つ)何だい、お前まで。(駒、高嘶《たかいなな》きす)〔――この時、看客の笑声《しょうせい》あるいは静まらん。然《しか》らんには、この戯曲なかば成功たるべし。〕――お沢さん、疲れたろう。乗っておいで。姥《うば》は影に添って、見送ってお上げ――人里まで。
お沢 お姫様。
巫女 もろともにお礼をば申上げます。
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蘆毛は、ひとりして鰭爪《ひづめ》軽く、お沢に行く。
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丁々坊 ははは、この梟、羽を生《はや》せ。(戯れながら――熊手にかけて、白拍子の躯《むくろ》、藁人形、そのほか、釘、獣皮などを掻《か》き浚《さら》う。)
巫女 さ、このお娘《こ》。――貴女様に、御挨拶《ごあいさつ》申上げて……
お沢 (はっと手をつかう)お姫様。草刈《くさかり》、水汲《みずくみ》いたします。お傍《そば》にいとう存じます。
媛神 (廻廊に立つ)――私《わたし》の傍《そば》においでだと、一つ目のおばけに成ります、可恐《こわ》い、可恐い、……そ
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