く》の幹に凭《よ》りつつ――間《ま》。――小児《こども》らの中に出《い》づ)まあ、いいお児《こ》ね、媛神《ひめがみ》様のお庭の掃除をして、どんなにお喜びだか知れません――姉《ねえ》さん……(寂《さびし》く微笑《ほほえ》む)あの、小母《おば》さんがね、ほんの心ばかりの御褒美《ごほうび》をあげましょう。一度お供物《くもつ》にしたのですよ。さあ、お菓子。
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小児《こども》ら、居分《いわか》れて、しげしげ瞻《みまも》る。
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お沢 さあ、めしあがれ。
小児一 持って行《ゆ》くの。
女児一 頂いて帰るの。(皆いたいけに押頂《おしいただ》く。)
お沢 まあ。何故《なぜ》ね。
女児二 でも神様が下さるんですもの。
お沢 ああ、勿体《もったい》ない。私《わたし》はお三《さん》どんだよ、箒を一つ貸して頂戴《ちょうだい》。
小児二 じゃあ、おつかい姫だ。
女児一 きれいな姉《ねえ》さん。
女児二 こわいよう。
小児一 そんな事いうと、学校で笑われるぜ。
女児一 だって、きれいな小母《おば》さん。
女児二 こわいよう。
小児二 少しこわいなあ。
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いい次ぎつつ、お沢《さわ》の落葉を掻寄《かきよ》する間《ま》に、少しずつやや退《すさ》る。
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小児一 お正月かも知れないぜ。この山まで来たんだ。
小児二 や、お正月は女か。
小児三 知らない。
小児一 狐《きつね》だと大変だなあ。
小児二 そうすりゃこのお菓子なんか、家《うち》へ帰ると、榧《かや》や勝栗だ。
小児三 そんなら可《い》いけれど、皆《みんな》木の葉だ。
女の児たち きゃあ――
男の児たち やあ、転《ころ》ぶない。弱虫やい。――(かくて森蔭《もりかげ》にかくれ去る。)
お沢 (箒を堂の縁下《えんした》に差置き、御手洗《みたらし》にて水を掬《すく》い、鬢《かみ》掻撫《かきな》で、清き半巾《ハンケチ》を袂《たもと》にし、階段の下に、少時《しばし》ぬかずき拝む。静寂。きりきりきり、はたり。何処《どこ》ともなく機織《はたおり》の音聞こゆ。きりきりきり、はたり。――お沢。面《おもて》を上げ、四辺《あたり》を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》し耳を澄
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