うがよ。(ここに確《たしか》に置いたのが見えなくなった、)と若え方が言わっしゃるけ。
 そうら、始まったぞ、と私《わし》一ツ腰をがっくりとやったが、縁側へつかまったあ――どんな風に、失《な》くなったか、はあ、聞いたらばの。
 三ツばかり、どうん、どうん、と屋根へ打附《ぶつか》ったものがあった……大《おおき》な石でも落ちたようで、吃驚《びっくり》して天井を見上げると、あすこから、と言わしっけ。仁右衛門、それ、の、西の鉢前の十畳敷の隅ッこ。あの大掃除の検査の時さ、お巡査《まわり》様が階子《はしご》さして、天井裏へ瓦斯《がす》を点《つ》けて這込《はいこ》まっしゃる拍子に、洋刀《サアベル》の鐺《こじり》が上《あが》って倒《さかさま》になった刀《み》が抜けたで、下に居た饂飩《うどん》屋の大面《おおづら》をちょん切って、鼻柱怪我ァした、一枚外れている処だ。
 どんと倒落《さかおと》しに飛んで下りたは三毛猫だあ。川の死骸と同じ毛色じゃ、(これは、と思うと縁へ出て)……と客人の若え方が言わっしゃったで、私《わし》は思わず傍《わき》へ退《の》いたが。
 庭へ下りて、草|茫々《ぼうぼう》の中へ隠れたのを、急いで障子の外へ出て見ている内に、床の間に据えて置いた、その手毬がさ。はい、忽然《こつねん》と消えちゅうは、……ここの事だね。」
「消えたか、落したか分るもんか。」
「はあ、分らねえから、変でがしょ、」
「何もちっとも変じゃない。いやしくも学校のある土地に不思議と云う事は無いのだから。」
「でも、お前様《めえさま》、その猫がね、」
「それも猫だか、鼬《いたち》だか、それとも鼠だが[#「だが」はママ]、知れたもんじゃない。森の中だもの、兎《うさぎ》だって居るかも知れんさ。」
「そのお前様、知れねえについてでがさ。」
「だから、今夜行って、僕が正体を見届けてやろうと云うんだ。」
「はい、どうぞ、願えますだ。今までにも村方で、はあ、そんな事を言って出向いたものがの、なあ、仁右衛門。」
 無言なり。
「前方《さき》へ行って目をまわしっけ、」
「馬鹿、」
 と憤然《むっ》とした調子で呟《つぶや》く。
 きかぬ気の宰八、紅《くれない》の鋏《はさみ》を押立《おった》て、
「お前様もまた、馬鹿だの、仁右衛門だの、坊様だの、人大勢の時に、よく今夜来さしった。今まではハイついぞ行って見ようとも言わねえだっ
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