暗くなる、と前途に近く、人の足許《あしもと》が朦朧《もうろう》と、早やその影が押寄せて、土手の低い草の上へ、襲いかかる風情だから、一人が留まれば皆留まった。
 宰八の背後《あと》から、もう一人。杖《ステッキ》を突いて続いた紳士は、村の学校の訓導である。
「見馴《みな》れねえ旅の書生さんじゃ、下ろした荷物に、寝《ね》そべりかかって、腕を曲げての、足をお前《めえ》、草の上へ横投げに投出して、ソレそこいら、白鷺《しらさぎ》の鶏冠《とさか》のように、川面《かわづら》へほんのり白く、すいすいと出て咲いていら、昼間見ると桃色の優しい花だ、はて、蓬《よもぎ》でなしよ。」
「石竹《せきちく》だっぺい。」
「撫子《なでしこ》の一種です、常夏《とこなつ》の花と言うんだ。」
 と訓導は姿勢を正して、杖《ステッキ》を一つ、くるりと廻わすと、ドブン。
「ええ!驚かなくても宜《よろ》しい。今のは蛙だ。」
「その蛙……いんねさ、常夏け。その花を摘んでどうするだか、一束手ぶしに持ったがね。別にハイそれを視《なが》めるでもねえだ。美しい目水晶ぱちくりと、川上の空さ碧《あお》く光っとる星い向いて、相談|打《ぶ》つような形だね。
 草鞋《わらじ》がけじゃで、近辺の人ではねえ。道さ迷ったら教えて進ぜべい、と私《わし》もう内へ帰って、婆様と、お客に売った渋茶の出殻《だしがら》で、茶漬え掻食《かっく》うばかりだもんで、のっそりその人の背中へ立って見ていると、しばらく経《た》ってよ。
 むっくりと起返った、と思うとの。……(爺様《じいさん》、あれあれ、)」
 その時、宰八川面へ乗出して、母衣《ほろ》を倒《さかさ》に水に映した。
「(手毬《てまり》が、手毬が流れる、流れてくる、拾ってくれ、礼をする。)

 見ると、成程、泡も立てずに、夕焼が残ったような尾を曳《ひ》いて、その常夏を束にした、真丸《まんまる》いのが浮いて来るだ。
(銭金《ぜにかね》はさて措《お》かっせえ、だが、足を濡らすは、厭な事《こん》だ。)と云う間も無《ね》え。
 突然《いきなり》ざぶりと、少《わけ》え人は衣服《きもの》の裾《すそ》を掴《つか》んだなりで、川の中へ飛込んだっけ。
 押問答に、小半時かかればとって、直ぐに突ん流れるような疾《はえ》え水脚では、コレ、無えものを、そこは他国の衆で分らねえ。稲妻を掴《つかま》えそうな慌て方で、ざぶざぶ真中
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